11. 発達障害
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1. 発達障害の概要
1-1. 発達障害の重要性
人口の1割に及ぶ
発達障害を意識し、自分にも特性がないかを自問する
24時間365日・老若男女あらゆる生活場面に影響する
小児期には顕在化しなかった発達障害が、社会人となってはじめて表面化することも珍しくない
老年期の発達障害も介護現場などでクローズアップされつつある
獲得してきた能力が失われていく認知症などと異なり、生まれつきの苦手さが、消長しながらも生涯に渡って存在していることがポイント
「正しい理解」と「適切な対応」で生活が改善する
治療を目指す医療モデルではなく社会モデルで対応する
発達障害の支援とは、個々の発達特性を分析し適切な対処を工夫していくことにより日常生活の質を改善していくこと
1-2. 発達障害をめぐる誤解
発達障害をめぐる後回
しつけや育て方の問題が原因ではない
親の関わりや愛情が足りないわけではない
子どもの「わがまま」でもない
偏食に代表される感覚過敏はわがままと誤解されがちだが、基本的には発達特性であり、むやみに叱責し矯正しても良いことはない 「そのうち大丈夫になる」とも限らない
「個性」や「性格」ではない
理解と配慮と支援が必要な「特性」である
医学的に治癒できる状態ではないにせよ、工夫した関わりによって、発達障害があってもその子のペースで発達できる
1-3. 発達障害=発達凸凹+不適応
生まれ持った能力の遅れとアンバランス
これ自体には優劣はない
ヒトが社会で生きていくには、五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)や数多くの能力(運動力・会話力・理解力・集中力・段取り力・思考力・学習力・社会力・忖度力…)が必要となる これらの能力の発達に大きな凸凹があって、毎日の生活のなかで何らかの問題を抱えている不適応状態が発達障害
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発達障害には状況依存性があって、適切な環境調整を行うことで、もともとの発達の力が担保される
ここに支援の勘所がある
たとえ発達が凸凹でも、凸凹に合った環境、例えば苦手なことは周囲がサポートをし、得意なことを伸ばしていく、といった関わりをしていくことで、不適応は最小限に抑えられ、その人のちゃんと発達が保証される
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不適応やミスマッチの度合いはさまざまで、どこから障害として線を引くかは明瞭ではない
軽症でも生活に困っていれば支援が必要
1-4. 不適応をもたらす社会的障壁
発達障害は発達凸凹だけで発症するものではない
2016年改正「発達障害者とは、発達障害あるものであって発達障害及び社会的障壁により日常生活又は社会生活に制限を受けるもの」 広い意味で不適切な環境を指す
「社会的障壁とは発達障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」 必要な配慮がなされないこと、制度上の不利益、差別や偏見など幅広い社会的障壁が発達障害の適応と発達を妨げることになる
1-5. 6つの発達障害
「発達障害はミックスジュース」と言うことができる
1種類の発達障害だけということは稀であり、同一人物に複数の発達障害が併存していることが多い
単一果汁ではなく様々な成分が含まれており、その混在した状態は、便宜上6つに分類
6つの発達障害
遅れている領域
特徴
人口の約2%
遅れている領域
特徴
運動発達の遅れ
他の発達障害を伴うこともある
遅れている領域
特徴
主な症状
コミュニケーションや社会性の発達の遅れ
約2%
遅れている領域
特徴
主な症状
薬物が効く場合がある
約5%
遅れている領域
特徴
知能は標準かそれ以上だが、「読み」「書き」「計算」など、学習に必要な機能の一部に障害がある状態
「勉強できない=学習障害」ではなく、IDやASDなど他の発達障害の鑑別が必要 0.5~2%
遅れている領域
複数の運動の協調性
特徴
学習にも直結するため、的確な評価と支援が必要
5%
2. 対応のコツ
対応や支援は診断名に基づいてなされるのではない
個々の特性を分析し、日常生活の困りごと、すなわち主訴を起点になされる 診断名はあくまで支援の手がかりであり、ヒントを与えるものでしかない
2-1. 知的発達症(知的障害)がある子どもへの対応
年齢相当の知能の獲得がなされていない状態
遅れに見合った環境設定をしていくことが対応の原則
4歳の子供で発達指数が70であれば、発達年齢は2.8歳となり、3歳手前くらいのハードル設定がちょうどよい 耳からだけでは理解できないことも多く、視覚的な情報提示をする
話し手に注意を向けることも苦手で、理解が不十分のまま返事をしてしまうこともある
言葉で表現できないために、気持ちを行動で表現してしまうことも多い
不安な表情、イライラした態度、粗暴な行動、落ち込みの雰囲気など、普段と違ったら、何を訴えたいのか周囲が本人の気持ちを推し量る
2-2. 運動発達遅延がある子どもへの対応
身体面への配慮に加え、知的な遅れや、二次的に生じる心理的な問題への配慮も欠かせない
日常生活の基本動作、子供同士の遊び、集団での一斉活動など、あらゆる場面で丁寧な配慮と支援が必要となる
可能な支援は積極的に行う一方で、必要以上の支援が発達や自立の妨げになる場合もあり、支援のさじ加減も見極める必要がある
運動発達が遅れる背景には様々な病態があるため、専門機関や主治医との連携が必須
2-3. 自閉スペクトラム症がある子どもへの対応
主症状
言語・非言語を問わず、意思疎通や周囲の状況理解が苦手えであり、コミュニケーションのやりとりを豊かにしていくことを目標とする
幼児期早期で言葉も乏しく関わりが難しい場合は、子どもの興味の対象を見つけ、その対象物を子どもと大人が共有して遊んでいく
最初は大人が子どもに合わせ、子供目線に立ってやり取りを伸ばしていく
非言語的なコミュニケーションが十分でないと言葉は増えない
言葉の有無よりも、身振りや手振りなどの非言語的なやりとりを大切にし、コミュニケーションが途切れずにつながっていくことを目指す
楽しい時間を共有し、子どもと一緒に笑い合うことが関わりの目安となる
語彙が増えても自分だけの言葉にならないよう、他者と通じ合う経験を重ね、言葉がコミュニケーション・ツールであることを体感させる
集団では、わかりやすく状況の理解ができるよう、時間と空間両面で見通しをよくする(構造化)
予想外の出来事が苦手で、予測の立ちやすいスケジュールを視覚的に提示する
空間配置もわかりやすくする
感覚過敏への配慮も必須
定型発達よりも感度が高く、普通の刺激でも堪え難く感じてしまう 幼児期では聴覚、触覚、味覚の過敏が目立つ
喧噪や普段と違う雰囲気にも敏感で、容易に不安に陥る
苦手な刺激は無理に我慢させず、刺激源と距離を撮りながら徐々に慣れさせる
パニックになったらその場を離れ、別のことで気持ちを逸らしてクールダウンを図る
苦手な刺激への無理強いを続けるとトラウマになる
目に見えないこと、暗黙のルールや比喩、言葉の裏を読むことも苦手
当たり前と思わずに、その都度、噛み砕いた説明が必要
興味の偏りやこだわりはプラスに作用する場合も多い
得意なことは積極的に伸ばし、その子の強みにして自信をつけさせる
成長するにつれ、表面的には問題がないように発達していく場合もあるが、身の回りに起こっているできごとの理解や感じ方や認知は依然として独特な場合が多く、個々の特性に合わせた工夫は不可欠
2-4. 注意欠如・多動症がある子どもへの対応
主症状
身体も気持ちもさまざまな刺激に容易に反応し、同時に複数の刺激を処理することが苦手になる
提示される刺激の数を減らすことが原則
どうしてお刺激が多い場合は、1つずつ順番に提示するか、重要な情報を強調して提示する
注意の持続時間も短いため、長い課題は小刻みにやらせ、合間に小休止を入れる
一斉指示だけでなく、本人への声かけによって注意を向けさせる
不注意による忘れ物などには、積極的に大人が介入し、注意喚起の声掛けや、忘れ物防止の工夫をして、注意の狭さを補っていく
多くは年齢とともに改善が見込まれるが、特性に見合った対処行動が身につくようにするために、自尊心を損なうような対応は厳に慎む
6歳以降で用いられる薬物の改善率は70~80%だが、あくまで対症療法
薬の助けを借りながら成功体験を積み重ね、発達を伸ばす
2-5. 限局性学習症がある子どもへの対応
読字、書字、計算などの特定の学習能力が発達段階から期待されるよりも低い状態
学習障害と同義だが「勉強ができない=学習障害」と誤解されやすく、DSM-5では限局性学習症と改名された 基本的に教科学習が開始される6歳以降に明らかになる状態
支援にあたっては、まず知能低下がないかを確認する
全般的な知能の遅れがあれば学習障害ではなく、知能レベルに合わせた対応が優先される
その他の発達障害の有無も確認し、それぞれの対応を行う
本物の限局性学習症では、学習困難さの詳細な分析、特性にあった学習方略の検討、スモールステップによる段階的習得、パソコンやタブレットの導入、得意な科目の増進による自信の強化などが要点
2-6. 発達性協調運動障害がある子どもへの対応
ただの不器用ではなく、中枢神経系の発達障害の一つ
頻度は5%
気合や根性では改善せず、的確なアセスメントと支援を要する
苦手な身体活動の分析を行い、本人がやりやすい方法を一緒に模索し、スモールステップに寄って苦手さが軽減していくようにする
努力の無理強いは苦手意識ばかり増やすのでよくない
2-7. 大人の発達障害への対応
上手くいかないことばかりが注目されがちだが、大人になるまで何とかやってこられた「本人なりの対処行動」に着目するのが基本
小児期から支援を受けてきた場合は、どのような支援が役に立って、どんな工夫をして切り抜けてきたのか、いわば「その人の成功体験のエピソード集」を作っていくようなつもりで支援を組み立てる
診断や支援を受けていない場合は、専門職との相談無しでやってこられた利点を聞いていく
自分なりに工夫して対処できてきた成功体験と、今ここで支援が必要になってきた限界点について本人と一緒に検討し、これまでの努力をねぎらいつつ、現状の分析とより良い対処行動を探していく
二次障害がきっかけで発達障害が明らかになる場合もある 2-8. 二次障害への対応
身体疾患の検査や精神状態のアセスメントとそれぞれへの対応を行う
症状を対処行動やSOSとして理解する
子どもを支える(受容・共感・支持)
親と家族を支える(受容・共感・支持)
子どもを取り巻く環境に働きかける(環境調整)
子どものこころへ働きかける(心理療法・精神療法)
身体と脳へ働きかける(薬物療法)
不適切な対応が嵩じると、様々な二次障害が引き起こされる
いずれも症状への対症療法を行うとともに、それまでの不適切な環境を少しずつ変えていく
込み入った状況に陥っている場合は、一朝一夕には改善されないため、本人の辛さを受け止め、家族を支え、少しずつ良い方向にいけるよう、長期戦のつもりでじっくりと支援する
2-9. 発達性トラウマ障害
発達障害は中枢神経系の先天的な障害が原因だが、発達障害のような臨床像を呈していても、実は強烈なトラウマ体験が原因となっている場合がある 長期のトラウマによって脳の機能や形態が変化し、多動や癇癪、うつや解離、激しい気分の変調、種々の依存症などに発展する 発達障害がなくとも発達障害同様の症状を呈するため、支援には区別が必用だが、実際は発達障害と発達性トラウマ障害が入り混じっていることも多い
参考文献
2-10. 保護者への支援
発達障害の子育てはとても大変で、人一倍以上の苦労が伴う
親を責めることは厳に慎む
辛さを傾聴し、親なりに工夫してきた対処行動をねぎらい、特性に見合ったより良い対処行動を一緒に考えていく
親だけでの子育てでは限界がある場合、躊躇なく様々な社会資源を利用し、地域全体で親子を支え見守りながら育てていくようにしたい 3. 支援の要諦
3-1. 共同作業による成功体験の蓄積
発達の最大の原動力は「できた!」という成功体験
しかし発達障害があると独力では成功体験を積むことが難しくなってくる
「失敗は二次障害のもと」
「失敗は成功のもと」と言われるが、発達の障害の場合は生来うまくいかないことが多く、失敗から独力で学び、成功を体験するのは困難
「成功は発達のもと」
適切な支援のもとで成功体験を積んでいくことが発達の最大の原動力となる
ここで適切な支援とは、特性の分析を行って、成功体験を増やすための方略を立てていくこと
ただし、支援者だけで特性の分析や方略の立案を行ってはいけない
支援の最終ゴールは、自分で自分の支援ができるという「当事者性の育成」であるから、本人や保護者とともに作戦を練っていく必要がある
その起点は最初のSOS、つまり、日常生活での困りごと
それを支援者がキャッチし、本人や保護者とともに分析と立案の共同作業を開始して、成功体験を増やしていく
この繰り返しが支援の王道
発達障害があっても、保護者や本人はそれなりの対処行動をしてきている
支援者からいると適切とは思えなくとも、何とかしたいという気持ちを否定しては共同作業にならない
当事者の意欲を汲み取りつつ、専門性を加味した、より適切な対処行動を一緒に立案していく
3-2. 当事者能力の向上と支援の自給自足
できないことだらけで失敗体験も多いと、自分の特性を振り返ることは難しい
できない子自分を直視するのには勇気が必要
自分を振り返ることができるようになり、自分でも特性に合わせた対処行動ができるようになっていく
こうして当事者能力が出来上がっていく
この繰り返しで支援が最小限になっていくのが支援の自給自足
ある小児科医は、発達障害の診療経験が増えてはじめて、自分の特性に気づいた
生来じっとしていることは苦手で、空気が読めないことも多く、感覚過敏や不器用も強かった
それからというもの、動きをコントロールし、自分の発言が相手にどう伝わっているかをモニターし、苦手な感覚刺激を同定してそれを避けるようにした
そのせいかどうか、発達特性だけで済んで、大きな不適応は起こしていないようである
発達特性や発達障害があると、人生のいろいろな段階において、さまざまな障壁にぶつかる
学生時代は大丈夫でも、社会人ではより高度の社会性が要求され、難しい局面に遭遇することもあろう
その際は躊躇なくSOSを発し、その時の支援者と共同作業を行って、成功体験を増やす
あるいはこれまでの経験を振り返って参考にしてもよい
このプロセスさえ途切れなければ、発達障害でも一生涯の発達が見込める